人に対して過度なマルチタスクを導入すると、人を壊すかもしれない −前編:マルチタスク黎明期−

マルチタスクは、時間を節約するために使う方式と言っていいだろう。
少しの時間の隙も許さず、前倒し、前倒しに作業を進めていく。

しかし、それを突き詰めていくと、その場の作業効率はよくはなるかもしれないが、
作業効率をよくするためのスケジュールを立てる時間を別途確保する必要があり、
作業が完了した時点では、通常の何倍も疲労がたまる。

結局、その場の作業効率をよくしようとして、
全体を見ると、膨大な時間の無駄を費やしている。
そして、必要以上に疲労する。

…人に対して過度なマルチタスクを導入すると、人を壊すかもしれない。
そう思ったのは、自分の体の調子が悪いと感じ始めてからのことだった。

そう感じ始めた具体的な時期は、白血病だと診断される少し前のこと。
そして、咳が止まらなくてかかった医者に「喘息」と診断された、少し後のこと。

その頃の私は、とにかく時間が欲しくて、焦っていた。
 子供と触れ合う時間を多くとりたい。
 家で仕事の準備の時間をとりたい。
そういう思いから、なるべく家で家事をする時間をとにかく早めに切り上げようと、
考えうる限りの努力をしていた。

努力とは、まず、タイムキーピング
そして、マルチタスク

◆タイムキーピング
時間を区切ってここまでに完了する!という目標を決めておく。
具体的に言うと、例えば
 1.洗濯機を回すのは20時まで
 2.食事を食べ始めるのは19時までに
と決めることである。
すると、それにあわせて、どういう行動をとればいいか、
事細かにスケジューリングしなければならなくなる。

1.の例から、事細かにスケジューリングしていくと、こんな具合になる。
00:00 (この時間を基準とする) 帰宅 → 帰宅直後の後始末(着替えとか)
00:05 風呂場から洗濯機に残り水のくみ上げ
00:07 洗濯対象物の選別
00:10 風呂場の残り水くみ上げ完了→洗濯機起動→干していた洗濯物を取り込む
00:15 干していた洗濯物の取り込み完了
00:25 1回目すすぎ:風呂場から残り水のくみ上げ2回目
00:30 風呂場の残り水くみ上げ完了→1回目すすぎ
00:50 洗濯完了 → 洗濯物を干す
01:00 洗濯物干し完了

帰宅してから、洗濯物を洗い、干し終わるまでに1時間程度で済むことがわかる。
帰宅時間が18:30ごろであれば、19:30には終わる算段である。
余裕はある。

しかし、実際には、
2.の「食事を食べ始めるのは19時までに」というタスクも割り込んでくるので、
上記のスケジュールどおりにはことは進まない。
そこで、マルチタスク作業が発生する。

マルチタスク
時間を有効に使おうという手口。
その精神は、少しの隙間も許さない、そんな感じ。
その隙間を作らない、あるいは効率よく隙間を認識するためには、
このようなことに気をつける。
 a.時間をおく必要があるが、完了までは放っておけばいいことは先にやる
 b.タスクの完了を知らせる手立てを作る
先の洗濯の例で行くと、以下の部分には隙間時間ができていることになる。

 ・風呂場から洗濯機への水のくみ上げ中
 → お湯取りホースを使えば、自動的にくみ上げが可能
 ・乾いている洗濯物の取り込み後から、1回目すすぎ時のくみ上げまでの間
 ・1回目のすすぎ以降、洗濯が完了するまで

これらの隙間時間には、2.の食事の用意のタスクを組み入れるとする。

2.の食事の用意も、単独でスケジュールを組むと、このような具合になる。
 注1) 御飯を炊く時間は省く。
 注2) 献立は、1汁2菜(焼き物・和え物)とする。

00:00 (この時間を基準とする) 帰宅 → 帰宅直後の後始末(着替えとか)
00:05 湯を沸かす
00:06 食材を切る → 一部、湯に投入&和え物用食材は、茹でたらすぐ引き上げ
00:10 食材切る完了 → 焼き物焼き始め → 和え物合える
00:15 和え物完了 → 盛り付け
00:18 焼き物完了 → 盛り付け
00:20 汁物、味付け → 盛り付け
00:21 御飯盛り付け

所要時間は、約20分。
これを先ほどの洗濯をするタスクのスケジュールにある、隙間時間に埋め込んでいく。
ただし、料理は19時までに用意しなければいけない、という制約があるため、
場合によっては、洗濯タスクより、料理タスクを優先させる。

すると、こういうスケジュール案が出来上がる

00:00 帰宅 → 帰宅直後の後始末
00:05 後始末 完了→湯を沸かす→残り水のくみ上げ → 洗濯対象物の選別
00:07 洗濯対象物の選別完了→食材を切る→一部、湯に投入
00:10 食材切り中断→水くみ上げ 完了→洗濯機起動→干していた洗濯物を取り込む
00:15 洗濯物の取り込み完了→食材切り続き
00:17 食材切る完了→焼き物焼き始め→和え物合える
00:22 和え物完了→盛り付け
00:25 焼き物完了→盛り付け→1回目すすぎ:風呂場から残り水のくみ上げ2回目
00:27 汁物、味付け → 盛り付け
00:28 御飯盛り付け
00:30 風呂場の残り水くみ上げ完了→1回目すすぎ
00:35 食事食べ始め
00:50 洗濯完了 → 洗濯物を干す
01:00 洗濯物干し完了

これなら、18:30に帰ってきても、何とか19時には食卓につける。
そして、洗濯終了の時間は変わらずに、別のタスクも実行可能である。

ただし、これを確実に実行するには、このスケジュールを頭に叩き込み、
さらに、時計をいちいち確認しなくても動ける工夫をしておかなければならない。
時計を確認するロスタイムはかなり大きいのだ。

そこで登場するのが、キッチンタイマー
上記で00:00を基準にしたのは、キッチンタイマーを使いやすくするためである。
キッチンタイマーは2個。
台所用と、洗濯機用と2箇所に配置しておくと、
どこで作業をすればよいかが分かりやすい。

…とまぁ、こんな具合で、髪を振り乱しながら、
育児休暇復帰後から、白血病関係で休職するまでの間、
マルチタスクという手段を用いて、時間の節約に励む生活を続けていた。

子供の面倒を見ながら、家事をし、さらに社会的な仕事も続ける。
世の中の家事以外にも働く必要がある母は、
各自工夫を凝らし、時間の節約に励んでいる。
そう頑なに信じて、それを続けたのだが…。

マルチタスク生活を続ける中、
どういう現象が自身に起こり、
どのように心境が変化していき、
 「人に対して過度なマルチタスクを導入すると、人を壊すかもしれない」
という発想に至ったのかは、また次回…。

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